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G's voice

英会話カフェを経営している男が、それとはほぼ無関係な事を酔った勢いで、無責任に書くコーナー。途中からまじめに小説家を目指すに至る。
ミリ(2)
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    「ミリ」一章 続き


     僕がしょっちゅう終電を逃してカプセルホテルを利用しているのを知っていた同じ会社の仕事で絡みのあった立川さんは、ある日僕に事務所の合鍵をくれた。
     

    「帰れなくなった時は、ここ使っていいよ」


     工事担当のまとめ役をしていた立川さんは元々うちの会社で働いていたのだけれど、定年退職してうちの会社の近くに自分の事務所を持ってうちの会社に関連した仕事を始めたのだった。どうやら、株などでかなり儲けて金持ちらしく、しかし独り者なので自分の会社も、やる事がないので趣味みたいなものだったのだろう。僕は立川さんが社員の頃から良く飲みに連れて行ってもらったりして世話になっていて、定年後の事務所にも良く顔を出していた。恰幅の良い外見と高級スーツはかなり偉い人の様だが、実際には会社員の時は平社員だった。

     その事務所は、住居仕様になっていて、畳の部屋もあったり、お風呂もあった。つまり普通のマンションみたいな作りだった。

    .

     彼女から電話があったのは次の日だった。その時僕は帰りの電車に同僚と一緒に乗っていて、正に昨日の夜中の出来事を同僚に話している最中であった。ほぼ満員の電車の中でのコール音はバツが悪かったが、一応出てみたらミリだったのだ。何とか切らずに小声で話し、話ながら次の駅で電車を降りた。同僚には「彼女だ」と一言、バイバイと手を振った。

     人が一斉に階段に向かって流れていくのをよけながら、僕は携帯電話にしがみついていた。
    .

    「昨日はとても楽しかった。お仕事大丈夫だった?」
    .

     昨晩話していた時より、幼い感じの声な気がした。
    .

    「いや、たいしたアポも無かったから、適当に昼寝しながら営業回りしたよ」
    .

    「彼はどうだったのかしら?」もう一人の男の事だ。
    .

    「いや、どうかね」

    .
    「名前も聞かなかったね」
    .

    「それより、どう?また会いたいな」
    .

     思い切って言ってみた。すると彼女はいいとか、ダメとかを通り越して、「何時?」と聞いて来た。

     何時かまでは考えてなかったから、
    .

    「いや、そうだな、次の週末はどう?土曜日」
    .

    「うん」
    .

     そんな感じで彼女からの連絡でまた会う事になった。

    .

    *

    .

     薄暗くなって、通りを冷たい風が吹き抜ける5時過ぎころ、彼女は真紅のコートに身を包み現れた。頭にはニット帽を被っている。
    .

    「なんかちょっとイメージ違うね」

    .
     かなり派手目で現れた彼女に言った。この前会ってからまだそんなに時間が経っていないからか、緊張感は無かった。

    .
    「わたしのお兄さんが洋服デザイン工房をやっていて、これもらったの」

    .
     そう言ってくるりと一回転した。

    .
    「うん、似合ってるよ」

    .
     僕はと言えば、昨日は金曜の夜と言う言い訳で、やはりカプセルホテルに泊まってしまって、背広のままだった。

     そのまま二人は近くの当時ちょっと流行っていたハンバーグレストランに入った。まだ早い時間だったが、結構なお客さんで賑わっていた。

     僕も彼女も看板メニューになっている特製デミグラスソースのハンバーグを頼み、ビールのあと赤ワインを飲んだ。

    .

     どうやら彼女は、プロの歌手らしかった。いや、もとプロと言った方が良い。聞くと赤坂にある結構お高いクラブの歌手だったと言う。そこを突然何らかの理由でクビになってしまい、どうしたら良いか、路頭に迷った結果、ストリートで歌おうと決意して最近路上で歌っているのだと言う。

     クラブでは若くてかわいい子がどんどん入って来て、居心地が悪くなってきていた、と言っているので、その時初めて彼女の年齢を聞いた。

     少し驚いた。てっきり僕より年下かと思っていたが、3つも年上だったのだ。33才だと言う。

     わたし童顔だから。そう言うが、見た目だけではない。話し方や歩き方もちょっと子どもの様だった。しかし、お酒を飲むと彼女は変わった。年を聞いたせいか分からないが、お姉さん目線の大人の女性に感じられた。

     赤坂のクラブには多くの有名人や政治家などが来ていたらしく、なんと現役の総理大臣に会った事もあると言う。有名プロレスラーやテレビ関係者なども来ていたと言う。有名サッカー選手達とよくカラオケに行ったとか、とてもではないが、僕みたいな一介のサラリーマンとは違う世界に彼女は生きて来た様だった。その話は非現実的に聞こえたが、嘘には聞こえなかった。

     外はしっぽりと日が暮れ果てて、ガラス張りの壁から外を見るとまだそこかしこにクリスマスのイルミネーションらしき物が残っていて綺麗だった。
    .

    続く

    | ミリ | 22:28 | comments(0) | - | - |