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G's voice

英会話カフェを経営している男が、それとはほぼ無関係な事を酔った勢いで、無責任に書くコーナー。途中からまじめに小説家を目指すに至る。
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ミリ(11)・・・離婚(2)
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    離婚(2


     

     

     勢いの喧嘩に於いて、離婚だ!当たり前よ!と瞬間同意に至る事は良くあったが、それは心からの言葉ではない。そんな事はお互い解かっていて、もうお決まりのケンカの「オチ」みたいになっていた。彼女は昼間寝ている事が多かったので、夜はやたらと元気だった。

     何度か僕は、酒の勢いではなく、真剣に彼女が僕と暮らすこと、僕が彼女と暮らして行く事がお互いのプラスにならないのではないか、と言う事について話した。真面目に話せば明らかに僕の方が理論的で説得力があり、最後彼女は小さく俯く事が多かった。そういった事の後には必ずと言っていいほど困った事が待っていた。

     

     

     次の日の朝起きると彼女はまだ眠っていて、不思議な事に腕にぐるぐる巻きに包帯をしている。


     「おい、何だよこれ?」


     そう聞くと、「触らないで!」と腕を引っ込める。
     


     昨日僕が眠った後手首を切った、と言う。しかしそんな大げさな物では無い事は一目瞭然だった。どこにも血は飛び散っていない。

    「ちゃんと手当しないと・・・」と僕が腕を持とうとしても決してそれを許さなかった。

     前に家を突然出て金沢に行った事が思い出される。言い合っても勝ち目がない時、あとで彼女は突拍子もない行動に出る事があった。


     

    *

     

     そして、ある日彼女の掛かり付けの心療内科の医師に個人的に会いに行った。彼女の付き添いで何度か行った事があるので、顔見知りではあった。

     医師にミリの行動について話した。何故そんな事をするのか、どうしたら良いのか。
     

     

    「矢田さんの気持ちが離れている事を感知して、それを何とか取り戻そうとしている行動でしょう」

     

     そう医師は分析した。
     

     

    「僕はどうすればいいですか?」
     

     

     

     意外にも目の前の心療内科の医師の彼の言葉は冷たく聞こえた。


     

     

    「あまり気にしないで下さい」


     

     

     えっ?と目を見る僕に対して、彼は、

     


     

    「それにあなたが振り回される必要はありません。彼女は自殺などしませんから安心して下さい。子供と同じで、とにかくあなたの気を引きたいだけなのです。」


     

     

     まさか彼女の長年寄り添って来た主治医がそんな風に言うとは思っていなかった。

     


     

    「でも、それでますます僕は引いてしまいます。」

     


     

    「そうでしょうね。彼女もそれを分かっていると思うのですが、どうしようもないのです」

     


     

     そこで、僕は思い切って聞いた。

     

     

    「先生、彼女と離婚するには、どうしたら良いのですか?」

     

     

    「結婚生活はどうしても無理なのですか?」
     

     

    「はい、随分前からそう思っています」
     

     

     医師は少し考えてから言った。


     

     

    「当分は彼女の言う事は基本的に無視して下さい。彼女が何をしても、けっして関心を示さない。彼女がどんな事をしても、それはあなたの命や彼女の命に係わる事にはなりません。彼女にはそう言った異常な行動は出来ません。まずは彼女の期待を断つ事に専念して下さい。」


     

     

     彼はかなり強い口調で言った。つまり、彼女の心から出ろと言う事か。さらに医師は続けた。


     

     

    「彼女の症状は、双極性が強く、とても楽観的な部分と悲観的な部分が時期や外部の刺激によるものではなく共存している複雑なものです。本人は分かっていても、他人には理解しづらい思考をもっていて、それを一般の人が理解しようとしても不可能です。まず彼女の世界から矢田さん自身が出て下さい」
     

     

     僕には医師が言わんとしている事が解かる気がした。その通りだ。彼女に受けた影響は、音楽やアートだけではない。地下鉄に乗っていて突如息苦しくなり、本当に死ぬのではないか、と思える体験をした。何でこんな事が突如起きるのか。僕の中では薄々感じていた。今までにそんな事は無かったのだが、その事をミリに言うと彼女は、


     

    「そう言う時は、まず絶対ここで死ぬことが無いって思うのよ」


     

     と普通にアドバイスしてくれた。

     どうやらやはり彼女もそう言った事を経験していて、その要素がまるで病原菌の様に僕に伝染して来たかの様に表れたのではないか。その時は彼女との生活が難しいより、自分が精神的な物まで大きく影響を受け始めている。今後ヤバいのでは、と思った。

     

     

     それからミリと二人の時は、何も会話が無いように努めて、ああ、とかふーんとか、または無視して過ごした。僕自身も、もう彼女と話すことは無いと思い始めていた。

     そんな日々が10日以上続いた。

     



    「独りきりだと寂しいけど、二人で居て寂しいのはもっと寂しい・・・」



     

     ある夜、彼女は窓のすぐ目の前に光に照らされて浮かぶオペラシティタワーを見上げてそう呟いた。






    (了)


    ミリ(12)に続く

     

     

     

     

     

     

     

     

    | ミリ | 22:03 | comments(0) | - | - |