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G's voice

英会話カフェを経営している男が、それとはほぼ無関係な事を酔った勢いで、無責任に書くコーナー。途中からまじめに小説家を目指すに至る。
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ポン引き・高橋
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    ポン引き高橋


     

     若い頃の好奇心の旺盛さに対して、それを止める理由は見当たら無かった。バカな事も沢山やった。それで経験を積んで初めて、知識だけではない、体験としての善悪の判断や、やっていい事、ヤバイ事などを学ぶ。
     

     僕は新宿が一時期拠点だった時期がある。確か学生の頃だったと思う。新宿の英会話スクールに訳あって通っていて、横浜からわざわざ行って、英会話スクールの為だけでは勿体無いのでかなり周囲を探索した。しかし、夜に関しては知り合いのバーや、クラブのはしりみたいな所へは行ったが、新宿の本丸とも言える、キャバクラとかの類の店にはそれまで行った事は無かった。それこそ知識では知っていたが、やはり一度体験してみるべきではないか。と言うか単純に興味があった。

     で、ある日思い切って夜の歌舞伎町に独りで潜入した。
     

    *
     

     勢いを付ける為、牛丼屋でビンビール1本を煽っていざ出陣。

     歌舞伎町のメインの通りは色取り取りのキラキラとしたいろいろな種類の店の光に溢れ、様々なタイプの人間でごった返していた。音も両側から全く違った音楽やアナウンスが流れ、互いに不協和音を奏でている。もちろん多くの風俗店も軒を並べていたが、何処がどんな風なのか全く分からない。

     周囲をキョロキョロ見ながら盛り場を一人でブラブラ歩いていると、当然ながら「ポン引き」が声を掛けて来る。(ああ、これがポン引きか)と思って試しに話を聞いてみた。当時僕にとってポン引きとは、単なる客引きと同じ認識だった。

     僕に声を掛けてきたその男は、見た目が他のそう言った連中とちょっと違っていた。チャラついた格好はしておらず、メガネを掛けて、全く普通のシャツとズボンで髪型も地味。真面目な感じだった。たぶん三十歳くらいだろう。


     

    「どうも、先輩。この近くで最近オープンしたいい感じのお店があるんですが、どうですか?」


     

     突然歩く僕の前を遮る様に立ちはだかり、そう言った。とっても低姿勢で嫌な感じはしなかった。

     僕はちょっとした好奇心から、少しだけ話を聞いてみようと思った。


     

    「それってどう言うお店なの?」

    「とにかく今月開店したばっかりなので、サービスもいいですし、開店セールでやってまして3000円で飲み放題ですよ。」

    「ふーん、もちろん女の子は着くよね?」

    「何言ってんですか、先輩!(その男は僕を社長ではなく、先輩と呼んだ)。あったりまえじゃないですか。開店セールなんで、あと3000円出せばヌケますよ!」

     あっはははは!と彼は大笑いした。
     

    (なんだこれ、結構安いな。ちょっとこれでいいかも知れない)
     

     一瞬そう考えたが、念のためもっと詳細を聞いてみた。
     

    「時間はどれ位なの?」

    1時間です」

    「延長料金とかは?」

    「はい、303000円ですね」

    (そうか、延長すると高くつくんだな)と思いながら、

    「他に掛からない?」

    「もちろんそれだけですよ」
     

     まず彼の簡潔な答えが信頼できそうな気がした。

    (うーん)僕の考えていた予算は6千円くらいだったので、取りあえず問題は無さそうだ。

     更に念のため僕は彼に聞いてみた。
     

    「お兄さん、名前は?」

    「はい、高橋です」


     

     彼はキチっと気を付けの姿勢をして答え、軽く頭を下げた。(まあ、これも何かの縁かな)見たいに考え、流れのままその高橋の後を着いて行った。


     

    *


     

     そこは思ったより表通りから離れていて、暗いエリアに入って行く。これ以上先はちょっと・・・、と思える寸前にその店はあった。

     「キャッツ・アイ」と言うシンプルな看板。何処にでもありそうな普通のバーに見えた。

     高橋に着いて階段を上り、二階の店の入り口で彼は店の人間とちょっと話をして、

    「では、後はよろしくお願いしまーす」

     と言って階段を足早に降りて行った。
     

    「どうぞこちらになります。暗いので足元にお気をつけ下さい」
     

     案内のウエイターらしき、細身で意外とやさしい感じのお兄さんに案内されて店に入った。店の中は入った瞬間はほとんど人の顔も見えない位暗かった。次第に慣れて来ると大体の店の中が見渡せた。結構客が入っていて、楽しそうに盛り上がっている。

     それは僕を少し安心させた。
     

     席は二人掛けのベンチシートで、前にテーブルがあり対面の椅子はなく、仕切りになっていた。腰掛けてしばらく待っていると、30代半ばと思しき女性が「こんにちは、アキです」と僕の横に座った。当時僕は二十代前半だったので、正直ちょっとおばさんに見えた。それでもまあ、安いから仕方ないか、と思った。

     他愛の無い会話を交わしていたが、ちょっと僕なりに相手を褒める積りで、
     

    「何でお姉さんみたいな素敵な女性がこんな店にいるのかな、なんて思っちゃったよ」
     

     と言うと、意外な反応。
     

    「こんな店ってどう言う事よ!」
     

     明らかに怒り口調。「いや、こんな店って言うか・・・」水商売自体の事を言ってるんだけれど、突然の怒り口調に僕はタジタジ。彼女はもしかして、店の経営側の人間なのか。

     それに続けて、彼女はちょっと怒った口調のまま、
     

    「あなた、ここのお店のシステム分かってるわよね?」
     

     と聞いて来た。
     

    「ああ、客引きのおっさんに聞いたよ。飲み放題1時間3000円だよね?」
     

     そう答えると、
     

    「そう。飲み放題は3000円。だけどね、あなたこの席に座ったでしょ?席代で8000円だから、今の時点で11000円よ」

     と言う。
     

    「えぇっ!?」

     驚くしかない。

    「何それ?そんな事聞いてないよ!」
     

     そう言いながらふと斜め上の方の壁に貼ってあるメニューに目をやると、マジックの汚い手書きで「コーラ2000円」などと書いてあるのが見えた。(こ、これは・・・)その時初めて認識した。これはいわゆるボッタクリバーじゃないかと。しかし、ここで納得する訳には行かない。
     

    「だって、ここに僕を連れてきた高橋って奴が、全部で6000円って言ってたよ。あいつ連れてきてよ」
     

    「その男が何て言った知らないけど、それはうちの店の人間じゃないのよ。だから、何言ってもこっちゃ知った事じゃないの!あんたそいつに騙されたんじゃない?」
     

     そう言い放った。正に突き放す言い方。しかし、そうなると、逆に僕も負けじと戦闘態勢になる。
     

    「ふざけんじゃねえよ!テメーらおかしいよ!だったら全部キャンセルだ!勘弁してくれよ、冗談じゃねえぞ!おーい、ここはボッタクリバーだぞぉ!」
     

     僕は大声で叫んだ。するとウエイターが三人即座に僕の方に駆け寄ってきて、囲まれた。一人がソファーの後ろから僕の後ろ首を掴んで引っ張り上げた。


     

    「静かにしねえか、この野郎!」
     

     さっきのやさしそうだったウエイターが、メチャメチャ怖い低音の声で僕を脅した。


     

    「・・・あ、はい」


     

     大人しくならざるを得ない。ここが何処だか忘れていた。完全に相手陣地なのだ。


     

    *
     

     ウエイター達が離れると、女とまた話になった。

    「いやさ、分かったけど、俺そんなに金持ってないんだよねー」話しながら密かに尻ポケットの財布から1万円札を後ろ手に抜き出した。
     

    「じゃあ、幾ら持ってるのよ」


     

     彼女が言うので、うーん、数えないと分かんないけど・・・。と煮え切らない返事。


     

    「いいから財布見せなさいよ!」


     

     と有無を言わせぬ勢いで言われ、仕方なく一万円を抜き取った財布の中を見せた。間一髪セーフ。中には札は6000円しか入っていなかった。(一万円抜き出したから、本来16000円だった様だ)

     それを見て、彼女は少し考えて言った。


     

    「これじゃ席代にもなんないじゃない。・・・家何処よ。」

    「えっ?」

    「何処住んでんのって聞いてるの」

    「あ、横浜」

    「横浜?遠いわね」


     家まで金を取りに帰って来い、と言う事なのか。

     これだと6000円払って逃げ帰るのが最善の策だろうが、それすら許されない状況の様だった。とにかくソファーと尻の間に挟まっている一万円札を何とか隠さねば、と思いながら、何処に隠すか考えた。ポケットに入れても、絶対バレるだろう。その時突如、高校の頃にタバコを靴下に挟んで隠し持っていた事を思い出した。まさか靴下までは調べまい。よし、何とか靴下まで移動だ。


     

    「明日払いに来れる?」


     

     女は僕に聞いた。残りの金の事だろう。現状あと5000円だ。

    「あ、でも金曜日まで新宿には来ないなあ。」

    「じゃあ、金曜日でいいわ。今日は6000円でいいから、絶対残りを払いに来なさいよね。」

    「あ、はい、分かりました。」


     

      身分証明書を渡せとか言う事でも無かった。もちろん、彼女も僕もそれを本気の約束などとは思っていない。しかし、この場はこれしか収める方法は無かったのだ。

     その後も出身が何処でみたいな適当な話をしながら、彼女から見えない様にお尻の下の一万円札を徐々に靴下まで移動させた。

     もぞもぞしながら話をしていると、
     

    「あんたさっきから動きがヘンよ!」

     と彼女が言う。
     

    (ドキ!)


    「いや、ちょっと背中が痒くってさ」

     僕が言うと、彼女は、
     

    「足見せて。」


     

     と言った。え?足見せるってどう言う事?僕の言葉を待たずに彼女は僕の股間に頭を突っ込んで僕の足首を掴んだ。

    「うっそ、何これ!」そう言いながら蹴っ飛ばす訳にも行かず、もう観念するしか無さそうだった。ちくしょう、これで万事休すだ。こんな事したら、こいつら多分ヤクザ者だろうから何をされるか分からない・・・。

     そして彼女は呆気なく靴下から札を発見した様だ。
     

    「ほーら、何これ?」

     

     勝ち誇った様に彼女が言いながら高く手を上げ僕に見せたのは・・・、



    「・・・あれ?」



     多分僕と彼女、二人同時にそう思ったに違いない。してやったり、と思った彼女は(え?たったこれだけ?)と思い、やられた、と思った僕はある意味(何でか解らないけど、助かった)と思った。



     彼女が高らかに見せた物は千円札だった。

     

     つまり僕が一万円札だと思って隠したのは千円札だった様なのだ・・・。即座に僕は言い訳をした。


     

    「いや、だって、全部持ってかれたら、俺、家に帰れなくなっちゃうからさぁ」


     

     まあ、そーね。そんな言い訳にも彼女は納得し、

    「分かったわ。じゃあヌイてあげるからさっさと脱ぎなさい」
     

     と言った。すぐに追い出されると思っていた僕は、

    (え?そっちはあるの?)

     そう思うとちょっと得した気分に。彼女はすぐに、僕のジーパンのチャックを下ろしにかかり、手早くオシボリで○○を拭いてオイルを使って・・・。あれだけ言い合って怒ってた女が、直後にご奉仕。たまんねぇー。

     ・・・あッ!

    *


     

     僕は、店を出た後、すぐにポン引き高橋を探した。ふざけんなあのウンコ野郎!人の事騙しやがって。ブン殴ってやる!(結果的に全部で6000円で済んだが)こっちはマジヤバかったんだ。

     しかし、会った場所や近辺を探してもいる訳も無い。そもそもヤツが高橋な訳も無いのだし。これ以上この街に居たら、またろくな事が無い気がしてとっとと帰った。


     

     それ以来夜の歌舞伎町には行っていない。


     

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    | その他諸々 | 21:44 | comments(2) | - | - |
    ご無沙汰してます。最後まで、興味を持ちながら、読みました。
    なかなか、短編ストーリーとして面白かったです。腕を上げましたね。ところで、ソフォクレスの「オイディプス王」を読むことをお勧めします。それとアリストテレスの「創作論・ポエージア」もお勧めです。プロの小説家への最短コースです。両方とも岩波文庫にあります。もちろん、 minorityな意見です。
    | katsumi shibata | 2016/05/02 11:14 PM |

    難しそうな本ですね。そんな古代から文章を書くための指南があったとは驚きです。
    | G-FLEX | 2016/05/03 12:08 AM |