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G's voice

英会話カフェを経営している男が、それとはほぼ無関係な事を酔った勢いで、無責任に書くコーナー。途中からまじめに小説家を目指すに至る。
ミリ(1)
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    「ミリ」
     

     僕には学生の頃、ミュージシャン(作曲・プロデューサー)になりたいと言うとっても月並みな夢があった。しかし、そんな夢は現実的でないのも解かっていた。

     結局、乗っかった電車を途中で降りること無く、今はしがないサラリーマンだ。最初のうちは何時かは夢を達成してやる、と心の奥底、何処かで思っていたが、毎日の生活はそれどころではなかった。夢は逃避なのか、支えなのか。何度か辞めようと思った事もある。しかし、一応大手企業なのでそんなに簡単に辞めるのはもったいない。一度辞めたら、もう元に戻る事は出来ないだろう。
     もちろん、サラリーマン生活自体だって楽ではない。これが一生続くとは思っていないが、自分の将来の事(その内結婚して家族持った時とか)も考えると無謀な事はできないまま7年もの歳月が過ぎていた。

     

    第一章

    出会い

     

     新宿のガード下、トンネルみたいな細い歩道で、赤い髪の毛の小柄な女の子がギターを持って歌っていた。

     その前には茶色の皮のロングブーツが置いてあって、千円札が無造作に何枚か入っていた。

     彼女は当時少しずつ出てきたストリートミュージシャンの様だった。ただ、他のストリートミュージシャンと違って、アコギではなく、エレキギターにアンプを繋いでいた。観客は誰もいないのに、彼女は天を仰ぐ様に全力で歌っている様に見えた。


     
    *

     

     その頃の僕はと言えば、毎日の様に会社の帰りに飲み歩き、終電を逃し、カプセルホテル(当時はマンガ喫茶は無かった)に泊まるのが日常化していた。営業に来てから3年が過ぎていた。もうすっかり周囲にも馴染んで、先輩には「絶対飲みの誘いを断らない男」として重宝されていた様だ。とにかくお客さんや周囲の同僚などとほぼ毎日飲む日々。酒は僕の生活に欠かせない物になっていたし、僕自身それを楽しんでいた。

     しかし、何せ職場である日本橋浜町から横浜の片隅の自分の家まではとっても遠いので終電も他の人間より早い。その結果、飲んでいる途中で終電を諦め、開き直ってしまう事が多々あり、また、カプセルホテルの広いお風呂やサウナ、タバコも無料で置いてあったり、それらのサービスも気に入っていた。

     

     その日もそんな感じで、飲んだ後、行きつけの新宿の安いカプセルホテルに向かっていた。深夜の新宿駅西口から東口に抜けるガード下。そこを通っている途中で彼女を見かけたのだ。
     多分夜中の1時くらい。外はそろそろ雪が降るのではないかと思われる寒い1月だった。さすがに夜中の1時くらいで人通りもあまりなく、その声はガード下のトンネルの隅々まで響き渡っていた。


     

     僕は彼女の歌声に立ち止り、しばらく聴いてから曲が終わると500円玉をブーツに入れた。彼女は僕にありがとうの挨拶をした。彼女から見たら30歳の酔っ払い男はオッサンに見えただろうか。

     彼女は一人では無かった。アコギの男が隣りで伴奏をしている。(カップルストリートミュージシャンなのかな)そう思ったが、二人の息はあまり合っておらず、女の子の方がチューニングが悪い、などと男に注文を付けたりしていた。

     その後僕は、更に500円玉をブーツに入れて、今時流行っている曲をリクエストしたりして、しゃがみこんで三人で溜まっていた。コンビニでビールと日本酒を買って来て飲みながらの3人宴会みたいになった。


     

    「ちょっとさ、寒いから、カラオケ行かない?」


     

     そう僕が提案すると、二人はそれは名案って感じで僕に着いて来た。多分午前2時くらいだったろう。そのまますぐ近くにあるカラオケボックスに入った。

     1月の平日の深夜のカラオケは空いていた。オールナイトで一人1500円はまあ安い方だったろう。話も盛り上がり、楽しかったので、明日、と言うか今日の仕事も気にせずに歌いまくった。

     

     カラオケボックスの中で知ったのだが、一緒に居た男は別に彼氏とかではなく、近くでストリートをやっていたので合流しただけらしかった。最初は友達のブルースハーブの女の子と一緒にやっていたけれど、終電だから彼女が帰ったと言う。そこで彼が合流したと言う次第である。
     カラオケでは思い付くまま何曲歌ったか、しかし、
    そろそろ始発の時間だと言うところで店を出た。

     店を出てすぐにあった24時間営業のマクドナルドへ。新宿駅東口の夜明けは、シラけたムードで皆疲れ果てていた。コーヒーをすすりながら話しているうちに、男は突っ伏せて眠ってしまった。揺らしたら、少し目を覚まし、真っ赤な目で「この近くの店で働いているから、そのまま行くよ」と言うとすぐにまた突っ伏せた。仕方がないので、彼を置いて彼女と一緒に店を出る。
     辺りは明るくなり出していた。頭の上にガタガタと電車は走っている様だった。彼女は新宿駅のすぐ近くに住んでいるから、歩いて帰ると言う。


     

    「もし迷惑でなかったら、おれ、ちょっとだけ眠りたいんだ。君の家行ってもいい?」

     

     と切り出した。下心とかではなかった。彼女もそれは分かっていただろうが、右手をパーにして見せ、断った。完全防御の姿勢だ。

     じゃあ、携帯番号教えてくれない?うん、いいよ。と番号を交換。

     そのまま僕は会社に向かった。
     多分そろそろ開いているのではないだろうか。会社の応接室で眠ろう。


     

      「ミリ」(2)へ続く

    | ミリ | 23:46 | comments(0) | - | - |